2006年 09月 06日
“ぼくの記憶は80分しかもたない” 80分しか記憶がもたない数学者とその家に勤める家政婦、その息子、そして博士の義姉が繰り広げる物語。 私が物語の中で惹かれたのは博士の生き様。 博士は心の底から数学を愛している。 数学に敬意を払い、真摯に向かい合い、あらゆる数式や数そのものに対して愛情を惜しむことなく注いでいる。 博士が数学のことを話しているとき、その数式や数には生命が宿っているような錯覚に陥るほど。それほど真剣になれる対象をもっている生き方、それはもしかしたら偏っているかもしれないが、それほど純粋なことはないと感じた。 「誰よりも早く真実に到達することは大事だが、それよりも証明が美しくなければ台無しだ。 本当に正しい証明は一部の隙もない完全な強さとしなやかさが、矛盾せずに調和しているものなんだ」 この言葉は数学の世界のみならず、どの場面でも通用する気がするなぁ。 本当に美しいものって有無を言わせない力があると思う。それはもちろん歴史的な数学の証明でも、文学でも、美術品でも、詩でも、そして人でも。 また博士は家政婦の息子に√(ルート)と名付ける。(頭が平らでルート記号に似ているためにそう名付けられてしまう。) 子どもへの愛情もまた数学への愛情と同じように深い。 記憶が80分しかもたない彼はルートに会うたび、 「賢い心がつまっていそうな頭だ」 と言って毎回あたまをなでる。その愛情表現には嘘偽りがなく、その気持ち(愛)は子どもにまっすぐに伝わる。ルートは博士を慕うようになり、そして後に数学の教師になる。 タイトルにもあるように博士には愛した数式がある。 これは物語の端々に登場するんだけれど、やはりそこには一筋の光があった。また光があると同時にそこには闇も存在していた。書くと長くなるので省略。。。是非観て下さい。 それからキャスティングなかなか良かった。 特に博士役の寺尾聰さんがはまり役!温かくて渋くてとても良かったな。 また数学のことをこれだけ面白く、分かりやすく表現できた作者の小川洋子さん、すばらしい。私はなぜか数学好き(学生時代の成績は悪かったけど・・・)。学生のときに慕っていた先生はよく考えたら数学の先生が多い、不思議!だから数学の話だけでも十分に楽しめました。 心温まりたいときにおススメの作品です。
by nmnl-aya
| 2006-09-06 23:09
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